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長野地方裁判所 昭和38年(行)3号 判決 1969年10月06日

原告 長場寛大 外三名

被告 長野郵政局長

訴訟代理人 片山邦宏 外四名

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

二、理由

請求の原因一、二の事実は認める。本件処分は、被告が国家公務員法八二条に基づいて原告らに対し行なつた懲戒処分であるから右処分については同法九〇条、八九条一項、九二条の二により人事院に対し審査請求をし、その裁決を経た後でなければ訴訟を提起できない。しかるに原告らは本件処分について法定期間内に審査請求をしておらず、もとよりその裁決を経ることなく本訴を提起したのであるから本訴は不適法として却下を免れない。

第四、本案前の抗弁に対する原告らの反論

一、原告らは、本件処分が不当労働行為であることを理由としてその取消を訴求しているのであり、不当労働行為に対する救済のため人事院に対し審査請求を行なつても人事院は無権限の故をもつて却下することは法制上明白である以上審査請求を経ないで訴訟を提起しても不適法とされるいわれはない。

二、仮に人事院に対する審査請求をその裁決を経なければならないとしても、全逓信労働組合の組合員らが昭和三六年四月一〇日ごろなされた懲戒処分に対し同年五月一〇日ごろ審査請求をしたところ、そのうち一部の者について漸く昭和三八年一〇月ごろに至つて裁決がなされたが残りの者については未だ裁決がなされていない状況である例に懲し、本件処分について人事院に対し審査請求をしたとしても、行政事件訴訟法八条二項一号所定の三ケ月以内に裁決がなされるようなことは全くありえないのであつて、このような事情のもとにおいては、審査請求に対する裁決を経ないで訴訟を提起したとしても同条同項第三号にいわゆる正当な事由があるものというべきである。

第五、本案に対する申立

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第六、本件処分の適法理由

一、原告らに対する懲戒処分の対象とされた非違行為のうち主なものは次のとおりである。

1、原告新保関係

(一) 原告新保は、新発田支部書記長として、原告長場、同芋川らと共謀のうえ、昭和三八年三月六日ごろ、新発田支部執行委員会を開催し、同年三月七日より九日までの三日間金塚郵便局(以下金塚局あるいは単に局ともいう。)およびその周辺に全逓労働組合員や他の労働組合の組合員(以下組合員らという。)を多数動員し、後記の各種違法な集団行動を行なうことを計画し、組合員ら動員の手配、後記内容のチラシ約六〇〇枚、ステツカー約四〇枚を用意するなどの準備をしたうえ、右計画を実行せしめた。

(二) 原告新保は同月七日、無断欠勤のうえ、当日の集団行動の責任者として金塚局に赴き、参加した組合員ら十数名を指揮して以下の非違行為を行ない、または組合員らをして行なわせた。

(1)、午前九時四〇分ごろから約二〇分間および午前一〇時四五分ごろから数分間局前路上に組合員ら十数名を集め、携帯マイクを用いて当日の集団行動の目的を説明するとともに、金塚局長兼田正作(以下局長ともいう。)が労使間の確認事項をふみにじり労働条件を低下させている旨事実に反する内容の演説を行なつて局長を誹謗し、午後二時ごろにも同様の方法で解散の挨拶をするなどし、これが喧噪を極めたため局の業務の正常な運営を妨げ、かつ局長の名誉を毀損した。

(2)、午前一〇時ごろ、組合員二名とともに局長の制止を押し切つて局の裏口より事務室に入り、客を装つて公衆室に入つてきた組合員ら七、八名と呼応して、局長および事務応援のため局に来ていた黒川郵便局長宍倉謹二、新発田下町郵便局長杉浦松三に対し、同人らが明確に断つているにもかかわらず、執拗に団体交渉を強要し、金塚局長の要請にも応じないで約三〇分にわたつて同局内に留まり、また午後一時半ごろ局公衆室に現れ数名の組合員と共に黒川および新発田下町両局長に対し大声で暴言を浴びせ、さらに午後三時ごろにも、「お茶をのませてくれ。」といいながら局長の制止を押し切つて事務室に入り、その退去通告にも拘らず約一五分間同所に留まつて、いずれも局の業務の正常な運営を著しく妨げた。

(3)、組合員ら十数名を率いて局付近の部落を集団行進し、組合員らをして、「金塚局長は自分の栄達のため無理に職員に積立貯金の集金を行なわせている。同局長は、局長は偉い者、局員は下男、下女という認識が未だ払拭されていない。職員は法で定められた休憩、休日が自由に取れない。時間外労働を行なつても手当が支払われない。」等の事実に反し金塚局長を誹謗する内容のチラシを配布させ、または同趣旨の内容を携帯マイクを用いて放送し、局長の名誉を毀損した。

(三) 原告新保は同月九日にも無断欠勤のうえ、金塚局に赴き、原告長場と共に同人に関する(二)記載の各非違行為をした。

2、原告渡辺関係

原告渡辺は、三月八日、無断欠勤のうえ金塚局に赴いて次の非違行為をした。

(1)、午前一〇時ごろから局公衆室において原告芋川や組合員らとともに局長および黒川郵便局長に対し、執拗に団体交渉を要求し、局長から再三退去を要求されたにも拘らず約一時間にわたつて不法に同室に留まつて局長に暴言を吐いて騒ぎ立て、また局長の事務処理にいちいち口をはさんで嫌がらせをいい、さらに午後一時五五分ごろから公衆室に現れ他の組合員三名と共に郵便物搬入の場所が違うなどといつて大声で騒ぎたて、いずれも局の業務の正常な運営を著しく妨げた。

(2)、午前一〇時五五分ごろ、公衆室において、利用客が小包一個を差し出して宛先到着までの日数を尋ねたので担当職員が三日位である旨答えたところ、傍から「ここの局長は悪い人だから一週間位かかる。」などと口をはさんで官職全体の不名誉となる行為をした。

(3)、午後〇時八分ごろ、局前に集合した組合員に対し、携帯マイクを用いて春闘の状況や局長を誹謗する内容の演説をし、喧噪を極めたため、局の業務の正常な運営を妨げるとともに局長の名誉を毀損した。

(4)、午前一一時一五分頃原告芋川とともに、局附近の路上で通行人に対し前記内容のチラシを配布し、午後も原告芋川とともに組合員ら十数名を率いて局周辺の部落を集団行進しチラシを配布させ、また局長を誹謗する内容を携帯マイクで放送してその名誉を毀損した。

3、原告芋川関係

(一) 原告芋川は新発田支部副支部長として、同長場・同新保と共謀のうえ、同新保に関する(一)記載の違法な集団行動を計画、準備し、かつ実行させた。

(二) 原告芋川は、同月八日無断欠勤のうえ当日の集団行動の責任者として金塚局へ赴き、次の非違行為をした。

(1)、午前九時五七分ごろから約四分間、局前路上に組合員ら十数名を集めて携帯マイクを用いて前日の経過報告をし、これが喧噪を極めたため局の業務の正常な運営を妨げた。

(2)、その後原告渡辺と共に組合員ら十数名を指揮して、同人に関する非違行為において述べたような非違行為を行なわせ、かつ自らも行なつた。

4、原告長場関係

(一) 原告長場は、新発田支部支部長として、同新保、同芋川と共謀のうえ、同新保に関する(一)記載の違法な集団行動を計画、準備し、かつ実行させた。

(二) 原告長場は、同月九日、無断欠勤のうえ当日の集団行動の責任者として局に赴き、次の非違行為をした。

(1)、午前九時過ぎから約二〇分間局前路上に組合員ら十数名を集めて、原告新保とともにこもごも携帯マイクを用いて積立貯金の集金に関する管理者側との交渉の経過を放送し、また右組合員ら全員による労働歌の合唱を行なわせ、これが喧噪を極めたため、局の業務の正常な運営を著しく妨げた。

(2)、午前九時三七分ごろ、原告新保とともに組合員ら十数名を率いて局公衆室に現われ局長が明確に断つているにもかかわらず、執拗に団体交渉を迫り、または大声で騒ぎ立てたり局舎の扉や窓ガラスを叩いたりし、更に午前九時四五分ごろ局長が勤務終了の事務員を局の裏口より帰宅させようとした隙に、同裏口より事務室に侵入し、局長や事務応援に来ていた加治郵便局長および亀代郵便局長らの再三の退去の要請を無視して午後零時ごろまでの間同事務室を不法に占拠し、この間局長に暴言を吐くなどして局の業務の正常な運営も著しく妨げた。

(3)、午後一時ごろから約一時間にわたつて原告新保とともに組合員十数名を率いて局付近の部落を集団で行進し、前記内容のチラシを配付し、携帯マイクで局長を誹謗する内容の演説をし、また「利用者の敵、権力主義者兼田局長」「非近代的な金塚局長の退陣を要求しよう。」「公衆サービス向上のため悪質金塚局長を追放しよう。」等のステツカー数十枚を道路筋の電柱や壁に貼付し、もつて同局長の名誉を毀損した。

二、原告らの前記各所為のうち、無断欠勤の点は国家公務員法八二条二号、一〇一条一項に該当するので、同法八二条一号に、その余の事実は、同法八二条三号に(なお原告渡辺の(2)の所為は、同法九九条に該当するので、同法八二条一号にも)それぞれ該当する。よつて、被告は原告らに対しそれぞれその主張のとおりの懲戒処分をしたものである。

第七、本件処分の適法理由の主張に対する原告らの答弁および主張(本件処分の瑕疵)

一、答弁

原告らが、昭和三八年三月七日より九日までの間それぞれ被告主張の日に金塚局に赴き、公衆室または事務室において局長に対し、団体交渉を要求したこと、局前路上で携帯マイクを用いて挨拶、報告または意見を述べたこと(但しその時間は五分ないし一〇分程度である。)、および局周辺でビラを配布し、ステツカーを貼付したことは認める。しかし、この点に関する被告の主張は、著しく事実に反しまたはこれをことさらに歪めたものであつて、右団交の要求、挨拶、意見などの陳述およびビラ・ステツカーの配布・貼付など原告らの行なつた行動は、以下詳細主張のとおり金塚局長が労使間の確認事項に違反し積立貯金の集金を局員に継続して行なわせていたため、その廃止を目的として行なつた正当な組合活動そのものであつて、懲戒処分の対象とされるいわれは全くない。

二、原告らの組合活動およびこれに至るまでの経緯

1、特定郵便局は全国に約一万五〇〇〇局あり、局舎の私有、局長の自由任用、世襲、経費の渡切り制により運用されていて他の公務員制度に全く類をみない封建的、非近代的労使関係のままとり残されていたのであるが、とりわけ無集配の特定郵便局(郵便物の集配事務を行なわず、外勤定員の配置がなく概ね局員三、四名の小規模な郵便局―以下単に無集配局という。)においては、もともと外勤職員と内勤職員との間には賃金体系、労働時間、被服の貸与その他の労働条件が異るにもかかわらず、内勤職員がそのまま外勤の仕事を併せ行なつているため、労働条件が一層不明確かつ劣悪であり、労務管理は特に非近代性が顕著であつた。

そこで、全逓中央本部は従来から郵政本省との間にその問題について交渉を重ね、漸く昭和三三年に至つて無集配局での郵便貯金の集金事務は昭和三四年度までに全廃するとの合意(確認)が成立した。そして、長野郵政局と全逓信越地方本部との間でも同年四月右の事項に関し団体交渉が行なわれ。右中央交渉での確認事項を更に発展させ明確にし、その結果無集配局での集金事務については、まず二年間の経過措置としてこれを窓口払込等の方式に切り替え漸減させたうえ二年後(昭和三四年度末まで)には全廃することで完全に意見が一致したのである。

なお、右中央交渉の結果は、昭和三三年三月六日本省貯金局より長野郵政局貯金部長宛に指導文書が出され、右地方交渉の結果は、同年四月一一日同貯金部長、経理部長から管内無集配局長宛に、また同年五月一日同貯金部長から管内各郵便局長宛にそれぞれ通達がなされて、更に明確なものとなつたのである。

2、しかるに、右確認・通達にも拘らず、無集配局での集金事務が依然全廃されないため、昭和三七年一一月第一七回信越地方委員会では集金票を四〇冊以上もつている局を拠点として、昭和三八年二月末日までに支部団交で集金票移換を確認するほか、重点を当該局長におき直接局長と交渉して移管させること、を主眼とする闘争方針が決定された。

新発田支部においては右闘争方針を受けて昭和三七年一一月二六日第一〇回および翌年二月二二日第一一回の支部委員会で拠点局の一つとして金塚局を選び、集金票の移管を推進させるとともに前記確認事項を無視し、労働組合を否認する態度を示す金塚局長に対し局長交渉を要求するとともに対外宣伝活動を行なつて局長の反省を求めることを決定した。しかも、同局長は勤務指定表を作成してこれを周知させることをせず、休憩休息時間を正規に与えず、女子職員に深夜業を行なわせる等、労働協約や労働基準法に違反することがしばしばであつた。

3、そこで、原告らは他の組合員とともに右決定に基づいて昭和三八年三月七日より九日まで金塚局に赴き、左のとおり局長に対し労働条件改善のための是正措置を求める団体交渉を要求するとともに、ビラの配布など対外宣伝活動を行なつたのである。

三月七日、原告新保は田中新発田支部執行委員らとともに、局長に対し貯金業務、集金票移管問題を主たる交渉事項として団体交渉の申し入れをしたが、局長がこれを拒否したため、たまたま夜間ベルの修理人が裏口より入局した際に、これと同時に局事務室へ入り団交を強く求めた。しかし局長の不誠実かつ敵対的態度により事態は進展せず右交渉事項についての交渉は全くできなかつたため、原告新保は、やむなく田中執行委員を残して局外へ出、ビラの配布をしたのである。

三月八日、原告芋川、同渡辺が、他の組合員とともに局長に交渉を申し入れたのに対し、局長はこれを全く不問に付し相変らず敵対的態度をとり続けた。そこで右原告らは、「午後一時ごろまた来るから交渉の申入れについて考えておいて欲しい。」旨申し入れ、他の組合員とともにビラの配布をし、午後再び交渉についての回答を求めたが、無視されるに至り、この日も目的を達することができずに解散したのである。

三月九日、前両日の交渉申し入れが拒否されたため、同支部支部長である原告長場も自ら局に赴き、原告新保らとともに、公衆室より局長に対し交渉を要求したが、局長は依然これにも応ぜず、遂には気分が悪いといつて帰宅してしまつた。このため、その後はやむなく、ビラ配布などにより強く組合の主張を訴え、郵便局利用者、村民の協力を得て、いささかでも組合の目的達成のために活動せざるをえなかつたのである。

三、原告らの行動は懲戒処分の対象とはなりえないものであることについて

原告らの行動は、上述のように組合役員としての職責に基き、主として貯金業務従事内勤職員の労働条件の維持並びに職場における労働条件の適正化のために行なつた正当な組合活動であつて、争議行為の範疇に入るものでないことはもちろんである。したがつて、右のような組合活動に対しては国家公務員法や人事院規則の懲罰法規を適用すべきではなく、公共企業体等労働関係法により律せられるべきものである。

ところが、被告は原告らの行為が組合活動であることの評価をなさず、国家公務員法のみにより懲戒したことは法令の適用を誤つたものであるといわなければならない。

第八、原告らの第七、二(原告らの組合活動およびこれに至るまでの経緯)の主張に対する被告の答弁と反論

一、原告らは、中央、地方、支部における各団体交渉で、それぞれ無集配局における集金事務は昭和三四年度末までに全廃する旨の合意(確認)が成立した旨主張するが、右主張は否認する。

1、無集配局において内勤職員が行なつている積立貯金の集金事務については昭和三三年初頃郵政本省当局と金逓中央本部との間で(1)現在、無集配局の内勤職員が行なつている集金事務は漸減の方針で進み、昭和三四年度末すなわち昭和三五年三月末日までに廃止する。(2)昭和三五年四月一日以降においても、無集配局の内勤職員が親戚知人といつた人間的つながりから、或いは窓口預入になつている預金者がたまたま預入が遅れたような場合に対公衆サービスとして等自発的に集金に行くことまでも禁止するものではない。(3)両者は右了解の趣旨を下部機関に理解させるため責任をもつて指導する、という内容の了解が成立したが、これと並行して長野郵政局当局と全逓信越地方本部との間においてもたれていた話合において昭和三三年四月頃に右了解内容を充分に尊重し、それぞれ下部機関を指導するということで了解に達した。そして、長野郵政局は昭和三三年四月一一日および同年四月下旬それぞれ通達を出し、また各種の貯金に関する会議の度上でも繰返し指導して無集配局における内勤職員の集金事務の問題につき徹底を図つた。

以上のとおり中央および地方交渉のいずれにおいても労使間の了解事項として無集配局が積立貯金の募集はもとより集金についても、これを全廃するとの確認のなされた事実はないのである。

2、次に、昭和三七年一一月一六日新発田郵便局で新発田支部とこれに対応する郵政省管理者との間で交渉が行われた後に、金塚局における積立貯金の集金について労使間で話し合いがなされ、その際金塚局長が出席して発言したことはあるが、同局長が支部役員らに対し局の集金事務を全廃する趣旨のことを確約した事実はない。

なお、管理者側では、昭和三七年一二月一日金塚局の積立貯金の実状を調査したところ、集金票は一三七件あり、うち団体預入が三六件、窓口預入が一〇一件であること、月平均約三十数件の集金がなされており、四人の職員が月に一、二度程度手空きの時間を利用して一回に一時間ないし二時間程度の局外集金をしていたこと、その集金に対しては規定の集金費が支給されていたこと、各職員とも局長に命令されて行なうのではなく例えば月末になつても預金者が貯金しない場合とか預金者から集金方を依頼された場合に職員が天気が良い時や暇な時間を利用して自発的に集金を行つていたことが明らかとなり、金塚局における集金事務に関しては前記労使間の合意および通達・指導に違反している事実のないことが確認され、このことはその後組合との話し合いの機会に組合側に伝えられたのである。

三、原告らの前記各所為は原告らが主張するような正当な組合活動とは到底いえないものであることにつき以下のとおり付陳する。

1、局前路上での集会について

被告は、前記局前路上での集会自体を非違行為として主張するものではないが、十数名にすぎない組合員らを対象に携帯マイクを使用して局において執務する職員の耳にガンガン響くような音量で演説を行ないこれが喧噪を極めたため局の業務の正常な運営を著しく妨げたこと、および演説の内容が局長の名誉を毀損するものであつたことを非違行為と主張するものであり、右のような所為が正当な組合活動の範囲を逸脱したものであることは明らかである。

2、局長が団体交渉の要求を拒否したことについて

郵政省における団体交渉は、中央交渉、地方交渉、支部交渉の三段階の場を設け、郵政本省と組合の中央本部、地方郵便局とこれに対応する組合の支部をそれぞれの交渉の場における交渉当事者と定め、交渉担当者は、省側と組合側がそれぞれ指名する「公共企業体等を代表する交渉委員」と「組合を代表する交渉委員」である。

しかし、特定郵便局の段階においては、各局所限りの問題について当該職員と管理者間における常識的な意味での事実上の意思疎通というものはありうるとしても、これは労働協約上の団体交渉ではなく、当該局に団体交渉の場を設定したものではない。そして、金塚局長は、右交渉委員として指名されておらず、殊に原告らのような他局職員との間に団体交渉を行う権限も義務も全くないから原告らからの団交の申し入れを拒否することのできるのは当然である。

尤も団交の性質がそのようなものであるからといつて、局長が支部役員らとの話し合いを頭から拒否しようとしたものではなく、業務の運営に支障がない限り適当な人数の職員と意思疎通を図るための話し合いを行うことには決してやぶさかではなかつたのである。現に、昭和三七年一二月七日、二四日、昭和三八年一月一六日には、新発田支部役員と十分に話し合いを行つている。しかしながら、前記三月七日より三日間の場合は、既に述べたとおり原告らが多数の組合員らの威力を示し、局長を大声で罵倒しながら交渉を求めたので、このような状態のもとでは正常な話し合いを期待することはできず、かつ若し話し合つた場合には業務の正常な運営が妨げられる虞れがあつたので、局長は話し合いを拒否したものであり、何ら不当なところはない。

3、局舎内での原告らの行動について

原告らが局長の明確な交渉拒否にもかかわらず、執拗に交渉を強要し、退去を求められたにもかかわらず局舎内に留まつて騒ぎたてたこと、殊に原告長場、同新保は局長の制止を排除して局事務室に侵入し退去を求められても、約三〇分ないし二時間留まつたこと、原告渡辺が局職員の小包引受けの際傍で嫌がらせをいつたこと、原告芋川が当日の責任者として渡辺の右行為を制止しないのみか同人に同調して郵袋の授受を妨害したことは、原告らがいかに弁解しても到底正当な組合活動とは認められない。

4、チラシの配布、ステツカーの貼付について

原告らが局付近で配布または貼付したチラシおよびステツカーの内容は前述のように事実に反し、局長の名誉を毀損するものである。原告らは前記三日間に右チラシ約六〇〇枚を配布し、右ステツカ約四〇枚を貼付しまたは他の組合員らをして配布若しくは貼付せしめたのであつて、これら内容および枚数からみて到底正当な組合活動とは認められない。

第九、証拠関係<省略>

理由

一、原告らが請求の原因一記載のとおり郵政職員であり、かつ組合役員であることおよび被告が概略請求の原因二記載の理由に基いて国家公務員法八二条により原告らに対し請求の趣旨記載のとおりの懲戒処分をしたことは、当事者間に争いがない。

二、ところで、原告らは本件処分が不当労働行為として無効であるとしながらも、無効確認訴訟を提起することなく処分の取消訴訟を提起し弁論終結時においてもなおこれを維持しているのであるが、そうとすれば行政事件訴訟法八条一項ただし書、国家公務員法九〇条、八九条一項、九二条の二により人事院に対し審査請求をし、その裁決を経た後でなければ訴を提起できないものであるところ、原告らが本件処分につき法定期間内に右の審査請求をしていないことは弁論の趣旨から明らかである。

三、原告らは右について、まず、人事院は不当労働行為について救済の権限を有しないから、懲戒処分が不当労働行為であることを理由としてその取消訴訟を提起するには人事院に対し審査請求をしてその裁決を経るを要しないという趣旨の主張をする。

しかしながら原告らは不当労働行為について救済を申し立てているわけではなく、行政処分としてなされた本件処分につき行政事件訴訟法に則り取消訴訟を提起しているのであつて、不当労働行為の主張は右処分に瑕疵があることの理由としての意味を有するにすぎないのであるから、国家公務員法九二条の二の適用を排除すべき理由は全くないといわなければならない。

四、原告らは、また、人事院が原告らと同じ全逓信労働組合の組合員らから提起された懲戒処分に対する審査請求につき裁決がなされるまでに数年を要し手続が遅延していることを理由として、本件について裁決を経ないことについて正当な事由がある場合に該ると主張する。

しかしながら、別個の処分に対する審査請求手続が遅延しているからといつて、それが本件処分について審査請求を経ないことについての正当な事由たりえないことについては多言を要しないところである。

五、以上のとおりであつてみれば、本件処分について人事院の裁決を経ないで提起された本件訴が適法であるとの原告らの主張は、いずれも理由がないので、本訴は結局不適法として却下を免れない。

よつて、本件訴を却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西山俊彦 落合威 清野寛甫)

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